間宮さんのニセ花嫁【完】
夕食を終え、お風呂に入らせてもらうと私は一人部屋の布団の上で体育座りをして今日一日を振り返っていた。
夕食は間宮さんと一緒だったけど桜さんがよく話し掛けてくれるからその相手をしていたら話すタイミングを失ってしまった。
まだ夜の9時だから寝てはいないはず。スマホに連絡してもいいだろうか。
と、
「佐々本、今いいか」
「(っ、間宮さん!?)」
スマホからではなく部屋の外から間宮さんの声が聞こえた。布団から立ち上がり部屋の扉を開くと部屋の前に彼が立っていて驚く。
「今日は起きてたか」
「っ……起きてました」
入って大丈夫か?と尋ねられて静かに頷くと私は彼を部屋に招き入れた。
朝と同じく、部屋の真ん中で彼と向き合うがまだ話すことがまとまってなかったので頭が真っ白になる。
すると、
「今日はごめんな、大変だっただろ」
間宮さんはそう優しく微笑む。その笑顔がやはり桜さんとそっくりだった。
「ほ、本当ですよ! いきなり稽古とか始まっちゃって、全然聞いていなかったので」
「はは、そうだよな。初めに言ったら帰っちゃうかなと思って」
「だから言わなかったんですか!?」
やっぱりわざとだったんだ。途中で姿が見えなくなったのも私に文句を言わせないためだったのか。
流石の私も腹を立てていると「本当に悪かった」と彼が申し訳なさそうに謝罪した。
「けど実際に感じてもらった方が分かると思ったんだ。きっとばあちゃんに認めてもらうのは凄く大変だと思う」
「それは……なんとなく分かりました」
「今朝の佐々本の言葉を疑っているわけじゃないが、ばあちゃんの言う通り一般人を巻き込むのと同じことをしてると思う。これからも佐々本には大変な思いをさせるかもしれない」
そうか、間宮さんはまだ「間に合う」と思ってるんだ。まだこの瞬間なら引き返せるって。
「(間宮さんが罪悪感を感じていないわけがない……)」
彼も自分の祖母と母を騙すことへの罪悪感を私よりも感じている。それでも突き通したいという強い気持ちを持っているんだ。