間宮さんのニセ花嫁【完】



「もし俺が壁にぶつかった時、佐々本なら正しい道に導いてくれるかもしれない。そう思って声を掛けたんだ。まさかここまで話が進むとは思っていなかったが」

「……」

「……佐々本が本当にいいって言うなら、改めてだが婚約者役を頼んでいいか?」

「っ!」


私が大きく頷くと間宮さんは安心したような表情で「よかった」と呟く。


「次の手も考えてたんだけどあまり浮かばなくて。その代わりに俺に出来ることがあれば何でも言って欲しい」

「そ、それはまた今度お伝えします」

「うん、何でも言って」


こんなイケメンに何でも叶えてあげると言われる私って、前世で沢山徳を積んだんだなぁ。
昨日、仕事終わりに間宮さんと会うまではまさかこんな展開になるとは思ってもみなかったけど、気が付いたら間宮さんの気持ちに心が動かされていた。

間宮さんはああ言ったけど、私が梅子さんの部屋で発言するのを期待してたってことは予想もしていたってことだよね?
だからあえて私には何も言わなかった、とすると……

ん?と頭に浮かんだ疑問を恐る恐る彼にぶつけてみる。


「ま、間宮さんって……昨日準備していたかのようにタクシーでここまで連れてきたり、私が梅子さんに反抗するのを期待して何も言わなかったり、実は色々と策士ですよね」

「バレたか」

「(認めた!)」


あっさりと策士であることを認められ、反対に戸惑ってしまう。途中で姿を消したのも含めて、間宮さんって結構ズル賢い?

そこから私たちは偽装結婚をするに至って様々なルールを決めた。
事実婚ということにして籍は入れないこと、極度に距離を近づけ過ぎないこと、間宮家ではお互いのことを下の名前で呼び合うこと。

そして、


「好きな人が出来たら正直に言うこと?」

「うん、好きな相手がいるんならその人を優先してほしいからな」


まるで私にだけ課せられたルールみたい。間宮さんだってもしかしたら誰かを好きになるかもしれないのに。


「(好きな人が出来たら、か)」


だけどそのルールは初めから何も意味を成していなかったことを、後になって知るのだった。


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