間宮さんのニセ花嫁【完】
婚約者、紹介します
軽快な音を鳴らすアラームを止め、天井に向かって「ん!」と蹴伸びをする。
昨日は驚いた部屋も今日は確認するように見渡すとスマホに表示された時刻を見て頷いた。
「(良かった、起きれた)」
このお布団、高級なのかとてもふかふかで柔らかく気を許したら永遠に包まれて眠っていたくなるところ我慢して目を覚ました。生地の触り心地も良く、まるでシルクに包まれているようだ。
名残惜しく布団から這い出ると軽く身を整えて部屋を出る。するとせっせと廊下を駆け回る若いお手伝いの女性を見かけた。
このお屋敷、何人くらいのお手伝いさんが働いているんだろう。そんな疑問を持ちつつ、私が向かったのは昨日顔を出した台所だった。今朝は桜さんの朝御飯のお手伝いをするという約束をしていたのだ。
複雑な廊下を進むと台所からトントンと包丁で野菜を切る音が響いてきた。
引き戸を開けるとその音が振り返った桜さんが私を見て「あらー」と微笑む。
「おはようございます、飛鳥さん」
「おはようございます。すみません、遅くなってしまって」
「ううん、全然早いくらいよ」
うん、だってまだ6時だもの。しかしまだ半分寝ぼけている私に対し、桜さんは着物を寝間着ではなく綺麗な柄のものに着替えており、メークもバッチリだ。もっと早く起きて準備をしていた証拠。
「何をしましょうか」
「それじゃあお魚の味付けお願いしてもいい?」
「分かりました」
それにしても広い台所だな。雰囲気はあるけどコンロや電子レンジが最新式なのを見ると流石だなと思う。
「私、子供のお嫁さんと並んで料理するの夢だったの」
「は、ははは……」
昨日と変わらず可愛らしいことを口にする桜さんに私は愛想笑いをする。この調子なら桜さんはずっと騙せていきそうな気がする。問題は梅子さんだ。
だけど変に気に入られようとすると彼女の気に障りそうだし、必死に稽古を受けて認めさせるしか手はないんだろうな。