間宮さんのニセ花嫁【完】
昨日食べて分かってはいたけれど間宮家の朝御飯はまるで老舗旅館に出てくる朝食と同じぐらいの品数である。普段からトースト一枚で過ごしている私と訳が違う。
これを全部一人でこしらえているんだから凄いよなぁと桜さんのことを心の底から尊敬する。もしかしたらこうして桜さんと並んで台所に立ち続けたら私も料理が上手くなったりするんじゃないだろうか。
朝七時半、昨晩夕食をいただいた大部屋に料理が乗ったお皿を運んでいると梅子さんが入ってくる。
「お、おはようございます!」
「おはようございます。朝から桜の手伝いですか、良い心がけですね」
そう言ってリモコンを手に取るとテレビの電源をつけた。梅子さんってテレビとか見る人なのか、と意外に思っていると桜さんに呼ばれて台所に舞い戻る。
暫くして料理が揃うと今度は間宮さんが寝間着姿のまま姿を現した。家族三人が揃ったところで朝御飯だ。
「今日のお味噌汁は飛鳥さんが作ったのよね」
「っ、は、はい!」
冷蔵庫にあった上等そうな味噌を使わせていただいたが緊張をする。梅子さんが沈んだ味噌を箸で解いてお味噌汁に口を付けるのをドキドキと胸を押さえながら見守った。
すると、
「味が薄いですね。それから香りが飛んでしまっています」
「(ガーン!)」
確かに味見をしてみたけど昨日の桜さんの味にはならなかった。
梅子さんの感想に打ちひしがれていると間宮さんも続くように口を付ける。
「俺はこういう味も好きだな、美味しいよ」
「っ……」
「それにばあちゃんは塩分抑えた方がいいよ。またお医者さんに注意されたんだろ?」
梅子さんの言葉によって傷付いた心に間宮さんの優しさが染み入る。
彼は「朝からありがとな」と甘い表情を浮かべる。うっかり好きにならないようにトクトクと高鳴る胸の鼓動を何とか必死になって沈める。
梅子さんが付けたテレビ画面では朝の情報番組が放送しており、そこに毎週レギュラー出演しているアイドルが朝の天気を伝えているのを聞きながら平和な朝が過ぎていった。