間宮さんのニセ花嫁【完】
平和が過ぎると何がやってくるか。
そう、それは……
「正座が崩れていますよ」
地獄である。
朝食後、お手伝いさんの手で綺麗な着物に装いを変えると梅子さんに屋敷の離れにある茶室に連れてこられた。
清々しい緑が香る竹林を抜けると見えてきた茶室は素朴ではあるものの、その伝統的な佇まいに思わずほうっと息を漏らす。本当この家って広いし建物を沢山あって、一人だと迷子になってしまいそうだ。
そしてこの茶室で私は昨日彼女に話されたように茶道の稽古を付けられていたのだが。
「飛鳥さん、貴女は一つのことに集中するともう片方が疎かになっていることを自分で気付いてますか?
「あ、う……」
「ほら! また手が傾いてますよ!」
今度は茶筅を持つ手を指摘され、そっちを気にすると今度は姿勢を指摘される。もう何杯も抹茶を点てた為、茶筅を握っていた右腕がパンパンである。
「間宮の人間になりたいのであれば努力してください。そう簡単に私は認めませんよ」
「(お、鬼だ……)」
休憩ですと言われた瞬間に正座を崩してその場に倒れこむと「行儀が悪い!」と怒られた。
体力には自信があったが慣れない着物を着ているから普段よりも消耗が早いようだ。