間宮さんのニセ花嫁【完】
別々に耳にした二つの会話の糸が頭の中で絡み合う。そうか、それだと間宮さんが跡継ぎになりたい理由と紗枝さんの親が彼女の結婚を許さない理由も説明がつく。
「あ、あの失礼なんですけど、間宮さんと紗枝さんってもしかして婚約者同士だったりするんですか?」
「え?」
間宮さんは一瞬驚いたように私のことをチラ見した。そして深く考えた後、静かに眉を顰める。
「どうして?」
「桜さんに聞いた話だと梅子さんが言っていた婚約者というのはいつもお世話になっている家の娘さんだと言ってたので」
「……母さんと紗枝も喋りすぎだな」
もしかしたら深く突っ込んではいけない話題だったのかもしれない。いくら偽婚約者を演じると言っても、間宮さんの触れてはいけない部分にまで足を踏み入れるわけにはいかない。
しかし気まずそうにしている私を見て間宮さんは「大丈夫だよ」と安心させるように言う。
「俺たちにそんな気持ちはなかったけど、昔からそういう話はあったっていうのは聞いてた。でも紗枝と結婚する気は無かったんだ」
「そうなんですか?」
「紗枝と正志が付き合ってるのを長いこと見てきたから。ばあちゃんたちが本当に俺たちを結婚させようとしていたかはさて置き、少しでもその可能性を消せたら二人も安心するじゃないかと思ってね」
その言葉を聞いて昨日の晩に聞いた間宮さんが家を継ぎたい理由を思い出す、
彼が家を継ぐことで誰かの都合が良くなると言っていた。それは自分が結婚することで紗枝さんの親が自分との婚約を諦めると見込んでいたから?
間宮さんはあの二人を結婚させる為に……
「間宮さんは優しすぎです」
「それは、俺の台詞だと思うけど」
「へ?」
間宮さんがハンドルを握りながら前を真っ直ぐに見つめていた。
「正直どうして佐々本が他人のためにこうも頑張れるのか不思議な気持ちだ」
「そ、そうですか?」
「優しい、という一言で片付けるのも失礼なぐらい、俺は佐々本に感謝してるよ」
まるで仕事でのことを褒められたかと思う程彼の言葉で胸が熱くなった。感謝されるだけでこんなに嬉しいだなんて、やっぱり私にとって間宮さんって凄く大きな存在なんだ。