間宮さんのニセ花嫁【完】
私は寝起きの頭を回転させて、何かいい返しがないか思考を巡らせた。
「え、えっと……本当にただの食事会だったよ。私が元気がないからって」
「嘘、それだったらみんなでやればよくない?」
「みんなはお盆休み入る前にやったからでしょ。私もちょっと悩みを聞いてもらったくらいで」
言えない。超高級イタリアンに連れて行ってもらった挙句、その場で偽装結婚を申し込まれ、この休みの二日間はずっと間宮さんの実家で過ごしていたなんて、
言えるわけがない。
「(会社では上司と部下、会社では上司と部下)」
この二重生活を私は成し遂げなければならない。
会社の入り口を抜けるとたまたま自動販売機に珈琲を買いに来てきた間宮さんの鉢合わせる。
「間宮さんおはようございます」
「おはよう、一緒に来たのか?」
「たまたま外で会ったんですよ」
昨日ぶりの間宮さんだがやはり会社で見るスーツ姿は安心する。
「月曜から辛いと思うが今日もよろしくな。今日の朝礼、松村だったよな? 頑張れよ」
じゃあ、と一足先に戻っていった間宮さんを眺め、二人同時にポツリと呟く。
「眩しいね」
「うん、眩しい」
「何で月曜の朝からあんなに爽やかなんだろう。私が今でも営業に残ってるのは間宮さんのおかげだね」
間宮さん、月曜日だけじゃなくて土日も爽やかだったけどな。だけど不思議なことに、弥生はオフの姿の間宮さんのことを知らないんだ。
素の間宮さんはあんな爽やかに笑うんじゃなくて、眉をひそめながら吹き出して笑うんだよなぁ。思い出すだけでときめいてしまいそうだったので昨日の思い出を頭から消すと自分の部署へ足を進めた。