間宮さんのニセ花嫁【完】



定時丁度に仕事が終わり、弥生と共に会社を出るとマンションまでの帰路を辿る。途中で間宮さんによる癒しタイムを挟んだお陰か、午後の仕事は調子よく進んだ。

帰る途中コンビニに寄り湿布を購入していると、マナーモードにしてきたスマホがポケットの中で震えた。外に出て確認すると私は「げっ」と汚い声を漏らす。


【今から会える? 会いたい】


元彼からの連絡にこの問題がすっかりと頭から抜けていたことを思い出した。そうだ、これ全然片付いていないんだった。
自分から浮気をした癖にまだ私に縋り付こうとする彼のことを理解出来ない。私のことが嫌になって他の女のところに行ったのはそっちじゃないのか。


「(そういえば別れてからもう2週間か)」


浮気されたことがショックで別れを告げたが交際期間が長かったことで喪失感もあり、そして別れた後も何故か付きまとわれるという理不尽さで初めはどうなるのかと不安で仕方がなかった。
今でもストーカー問題は片付いていないけれど、別れたことの悲しさはそういえばもうないな。

あれから返事を返していないLINEのトークを見て、「そろそろ消そうかな」と思っていると、


【家で待ってる】


そんな謎の文章が送られてきて目が点になった。

は? 家? 家って誰の……


「(ま、まさか……!)」


私は早足でマンションへの道を駆けた。


う、嘘でしょ……


「(いる……)」


私の部屋の玄関から死角になるところで壁に隠れながら確認すると、確かに私の部屋の前に元彼である聡の姿を発見した。
彼は玄関扉に凭れながらスマホを弄っており、たまに辺りを見渡して私が帰ってきていないかを確認した。

どうしよう、このままじゃ絶対に鉢合わせする。というか家に入れないんですけど。
これまではLINEでしつこくメッセージを送ってきたり帰り道視線を感じるぐらいだったが、直接家を訪ねてくるなんて何を考えているのか。

LINEの内容から察すると浮気の件の謝罪だろう。まさか復縁できると思っているのだろうか。
でも彼が浮気したのは一回きりだし、これに懲りて今度こそちゃんと結婚について真面目に考えてくれるのであれば一度話してもみても……


「(いやいやいや、勝手に家まで来る人が正常な判断できるわけがない!)」


私は踵を返すと自分のマンション付近を後にした。


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