間宮さんのニセ花嫁【完】
結局、また会社にまで帰ってきてしまった。会社が入っているオフィスビル一階のベンチに腰掛けながら、腕を組んで云々と思考を凝らす。
聡、いつまであそこにいるつもりなんだろう。もしかして今日は家に帰らないつもりなのだろうか。
いっそのこと、LINEで「今日は帰らない」と送ってみるとか? それじゃあ今まで無視してきた理由が……
会社、まだ誰か残ってたりしないかな。
「佐々本?」
「っ……」
顔を上げると退勤したと思われる間宮さんが側に立っており、慌てて「お疲れ様です!」と立ち上がって軽く頭を下げる。
「お疲れ。佐々本は松村と定時ぐらいに帰ってなかったか?」
「え、と……実は友達とご飯の約束してて、その子の仕事が終わるのを待ってるんです!」
「待ってる? ずっとか?」
私が会社を出てから一時間は裕に過ぎている。流石に無理があるだろうか。
しかし間宮さんも部下のプライベートについて深く突っ込まないようにしているのか、私の返事に納得したように見えると「そうか」と、
「じゃあ気を付けてな。お疲れ様」
「お、お疲れ様です」
ビルを出て行く間宮さんのことを見送ると脱力気味にソファーに戻る。
吃驚した。間宮さん、まだ帰ってなかったんだ。というか人が残ってたとしても元彼が家に来てるんです、なんて話出来ないよ。
弥生のことを呼ぼうかと思ったが、今日は好きなアイドルが出演する歌番組があるとかでウキウキ気分で帰ってきたことを思い出す。このタイミングで呼び出すのは可哀想だ。
取り敢えずもう一度だけ家に帰っているかどうかを確認して……
すると遠くの方から誰かがビルに帰ってくるのが見えた。私はその人に「え?」と首を傾げる。
「ま、間宮さん?」
「佐々本、本当に大丈夫なんだな」
「へ、」
急いで戻ってきたように思える彼に口から滑稽な声が漏れた。