間宮さんのニセ花嫁【完】
昨日も車で家まで送ってくれたが、仕事帰りに寄ってもらうのとは訳が違う。
「それに約束したからな。佐々本の頼みなら何でもするって」
「っ……で、でもこれは婚約者とは全く関係ないですから!」
「いや、いいんだよ。困ったことがあったら何でも言ってほしい」
それは上司として言っているのか、それともニセ婚約者として言っているのか。
どちらにせよ、ここまで頼れる人が側にいて良かったと思う。
「俺が確認したところ、部屋の前には誰もいないよ」
「ほ、本当ですか?」
「うん、周りに怪しい奴もいないし。俺もついてるから部屋まで行ってみるか?」
間宮さんの言葉に頷くと聡が帰ったことを願ってマンションの中に入った。
エレベーターで自分の部屋がある階まで上がると彼は「そういえば」と、
「その男は部屋の合鍵とか持ってないの?」
「別れ話をした時に返してもらったから大丈夫だと思います」
「そうか、一応部屋の中まで警戒な」
「はい!」
間宮さんの言った通り、部屋の前にいたはずの聡の姿はなかった。恐る恐る部屋に入り、クローゼットや風呂場まで隅々と確認すると玄関先で待ってくれていた間宮さんの元へ戻る。
「大丈夫そうです、誰もいません」
「そうか、よかった」
「すみません、夜分遅くこんなところまで来させてしまって」
だけど間宮さんが隣に居てくれたお陰で安心して帰ってこられたのは事実だ。心の底からお礼を言うと彼は私を安心させるように首を横に振る。
「いや、こっちこそ押し掛けて悪かった。また何かあったら構わず相談してくれ」
それじゃあ、と帰ろうとする彼を私は何故か名前を呼んで呼び止めてしまった。
本能的に声が出てしまったので振り返った彼にパクパクと金魚のような口を動かす。