間宮さんのニセ花嫁【完】

誕生日の、決意




それから足早に数日が過ぎ去り、私はまた間宮家に足を踏み入れていた。


「ぎこちないですが部屋での作法は身についたようですね。ですが真剣になりすぎて表情が固いですよ」

「す、すみません……」


今日も今日とて梅子さんの稽古を受けている。しかしここで漸く彼女からお褒めの言葉を頂くことができた。
良かった、先日購入した礼儀作法の本を熟読した甲斐があった。まだ梅子さんや桜さんのように綺麗じゃないけど。

するとまだ時計が三時にもなっていないのに梅子さんが畳から腰を上げる。


「さぁ、今日はこのくらいにしましょう。桜の手伝いをしてきてください」

「え、もう?」


先週は晩御飯の直前くらいまで稽古でいっぱいだったのに。まだ夕方にもなっていない。しかし彼女は目を丸くする私を上から見下ろし、冷めた口調で告げる。


「きっと台所では大変なことになってるでしょうから」


彼女の言葉に私は首を傾げる。

しかし、私は梅子さんに従って台所へ向かうと彼女の言った言葉の意味を理解することが出来た。
いつもは桜さんしかいない台所であるが、今日は彼女以外にも5人ほどのお手伝いさんたちが狭い台所で入り乱れている。次々と完成していく料理に圧倒されながら、丁度目の前を通った桜さんに声を掛けた。


「あら、飛鳥さん。手伝いに来てくれたのね〜」

「あ、あの、これは一体……」


普段は食卓には和食しか出てこないのだが、今日に限って和洋中と様々な種類の料理が所狭しとテーブルの上に並べられている。
誰かお客さんでも来るんだろうかと思っていると桜さんは笑顔は保ちながら忙しそうに手を動かした。


「今日はお祝い事だから。毎年この日だけ総出で大忙しなのよ」

「お祝い事?」

「そう、今日は千景の誕生日でしょ?」


千景の誕生日……ってことは、つまり……!


「(間宮さんの誕生日だ!)」


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