間宮さんのニセ花嫁【完】
「あ、やっぱりまだここにいたのか」
「千景さん……」
中に入ってくると間宮さんは困っていた私の顔を見て事情を察したらしく、一緒に梅子さんにお願いをしてくれた。
彼が前から約束していたことととても大事な用事であることを告げると梅子さんは納得したらしく、私は茶室を後にすることができた。
自室で洋服に着替え、玄関で待ち合わせると彼が準備していてくれた車の助手席に乗り込んだ。
「忘れ物ない?」
「はい! 大丈夫です!」
「じゃあ道案内よろしくな」
そう、私たちは今からとある場所へ向かう。今回は私が間宮さんにお願いしたことだった。
話は数日前に巻き戻り、それは会社での出来事だった。
「実家に挨拶か」
昼休み、休憩所でコーヒーを飲んでいた彼は周りに人がいないことを確認して呟いた間宮さんに頷く。
「私の恋人のふりをして家族に会って欲しいんです。お願い出来ませんか」
「それは大丈夫だが、いいのか俺で」
「も、勿論です!」
むしろ間宮さんレベルの男を連れて帰ってきたら、両親度肝を抜かれた後凄く浮かれるんだろうな。
間宮さんと一緒で親から結婚を急かされていた私。しかし肝心の婚約者が結婚直前に浮気というショッキングな出来事をまだ両親に伝えることが出来ずにいた。
婚約者に浮気されたなんて言ったら、うちの家は大騒ぎだろうな。それに早く結婚してて孫の顔が見たいと言っていた母は特に悲しむだろう。
少しでもショックを和らげるために、ここは一度間宮さんを紹介してちゃんと結婚については前向きに考えていると伝えるべきだ。
それにもし間宮さんと別れてもこのレベルの男性なら私が捕まえていられなかったって思われても変じゃないし!って、途中から凄く悲しいことを自分で言ったな、私。
「駄目でしょうか?」
「佐々本が俺のために頑張ってくれてるんだから何でもするよ。来週あたりでいいか?」
「はい!」
そうして私は日曜日に私の実家に二人で向かうことを約束したのだった。