間宮さんのニセ花嫁【完】
高速道路を運転している彼に私は申し訳なさげに呟く。
「すみません、折角のお休みなのに長いごと運転させちゃって。実家が遠いので」
「大丈夫だよ。挨拶だけど、まだ結婚の話はしなくていいんだよな?」
「はい、取り敢えずは結婚を前提に付き合ってるってことだけを」
ということは、私の家族の前では完全に私と間宮さんは恋人同士のふりをするわけだけど。
改めて恋人のふり、なんて言うけど一体何をしたらそう見えるのか全く見当がつかない。
「(手を繋ぐわけにもいかないし、元々会社の上司と部下だった私たちが恋人って難しすぎる……)」
私は頭の中で彼を紹介するシミュレーションを繰り返していると、二時間ほどして私の実家に到着した。車から降りた間宮さんは辺りを見渡して感慨深く言う。
「まさか佐々本が海の近くに住んでいたとはな」
「田舎すぎて何もないですけど、平和な町ですよ」
大学に入るときに上京したのでそれから家に帰るのは年に二、三回。ショッピングモールもない町だが、長閑な雰囲気と微かに香る潮の匂いが今でも懐かしくて好きだ。
実家の玄関前まで間宮さんのことを案内した私だが、ここにきて急激に緊張が増してくる。
「(帰ること言ってないんだよなぁ。きっと吃驚させてしまう)」