間宮さんのニセ花嫁【完】
だけどきっと間宮さんの方が緊張しているはず。私は意を決してインターホンを指で鳴らした。
暫くするとインターホン越しに母の声が聞こえてくる。
《はーい》
「お、お母さん。私、飛鳥」
《飛鳥? どうしたの急に》
ちょっと待っててと言うと暫くして彼女が玄関扉を開けてくれた。顔を合わせるのはお盆振りだからそこまで久しぶりな感じがしない。
母は私の顔を見るなり「どうしたの?」と駆け寄ってくる。
「急に来るなんて吃驚するじゃない」
「ご、ごめん。ちょっと用事があって」
すると困惑している母の前に間宮さんがひょこっと顔を出した。
今まで付き合った男性を親に紹介したことがないため、突然の男性の登場に吃驚しているのか彼女はひたっと話すのをやめてしまった。
「こんばんは、飛鳥さんの会社の上司の間宮と言います。遅くにすみません」
「い、いえいえ? え、上司さん?」
上司という言葉に私が会社で何かをやらかしたのではないかと不安そうな顔で私のことを見る母。
自分からちゃんと言わなきゃと私が口を開く前に、間宮さんが誰よりも早く先手を取った。
「今飛鳥さんとお付き合いをさせていただいていて、ご挨拶に参りました」
「お、付き合い……?」
「お、お母さん! 私ね、今のこの人と付き合ってるの!」
お母さん!と私が呼びかけると意識が何処かに飛んでいた母は我に返ったように後ろを振り向き、「おとうさーん!」と大きな声を上げて家に戻っていく。
そして更に暫くすると慌ただしい足音が玄関に響き渡り、母が眼鏡を掛け直している父を連れて帰ってきた。
「お父さん! 飛鳥が! 男の人を!」
「ま、まさかそんな……ほ、本当だ!」
母と父がお互いに頰をつねりあって夢ではないことを確かめている傍ら、間宮さんはずっと柔らかな微笑みを浮かべている。
あぁ、せめてもっとまともな紹介ができれば良かったのに。本当の恋人同士ではないとはいえ、会社の上司にうちの両親を紹介するのは気が引ける。
「あ、あの……私の父と母です……」
とほほと涙を浮かべながら、私は隣の間宮さんに両親を紹介する羽目となった。