間宮さんのニセ花嫁【完】
「でも……どうして飛鳥なのかしら。間宮くんのような方なら他にも良いお相手がいらっしゃったでしょうし」
「……」
母の言葉を受けてコーヒーを口に運んでいた彼はゆっくりと落ち着いた口調で話し出した。
「僕は今まで、物事を諦めるのが当たり前のように思っていました。やる前から駄目だと自分で決め付けていたんです。でも彼女を見ていると、不思議とそういうネガティブな気持ちが無くなるんです」
それは私もまだ聞いたことがない間宮さんの気持ち。
「彼女となら諦めずに前向きでいられるのかもしれないと仕事でもプライベートでもそう思わせてくれる人です。素敵な娘さんに育ててくださり、ありがとうございます」
「い、いえ……」
全く冗談に聞こえない、真摯な彼の気持ちに母だけではなく父までもが頰を赤く染める。
チラリと隣と伺うと間宮さんと目が合って、「打ち合わせ通り」と言わんばかりに軽く微笑まれる。
そうだ、これは恋人のふりなんだから。今のは間宮さんの演技。だからいちいちドキドキする私の心臓よ! 早く静まって〜!
「んんっ、何はともあれ良い人を見つけたな、飛鳥」
「本当よ〜。あ、間宮くん、よかったら夕御飯も食べていって」
「ご馳走になります」
こうして、私の両親に挨拶するという機会は無事に終了していったのである。