間宮さんのニセ花嫁【完】
母が張り切って使った晩御飯を食べ終わると、私たちは実家を後にする。また是非家に来てくれ、と父は間宮さんと握手を交わし、母も涙ながらに私たちを見送った。
帰りの車の中で間宮さんが今日一日を振り返る。
「元気な親御さんだったな」
「本当にすみません、変なことばかり」
「いいや、素敵なご両親だったよ」
きっと本音なんだろうな。私は恋人役を演じてくれた彼に心から感謝をしていた。母も父も喜んでくれたし、きっとこれでよかったんだ。
「あの二人を見てると佐々本が結婚に憧れてた理由が分かるよ。凄く幸せそうだった」
「……そうですね。私もいつかはああいう仲のいい夫婦になるんだと思っていました」
「……」
動き始めた車は高速に乗るまでのろのろと田舎道を進んでいく。
「母、実家は凄くお金持ちでお嬢様だったんです。だけど父との結婚を反対されて、駆け落ち同然で結婚したらしくて」
「……そうだったのか」
「身寄りもなくて初めは凄く苦労したらしいんですけど、夢だった海の近くに家を建てて凄く幸せそうで。そんな二人のことをずっと近くで見ていたから結婚に憧れるのは当たり前のことで」
いつか私の前にも母にとっての父のような、父のとっての母のような、世間体も何もかもを取っ払ってでも一緒にいたいと思える人に出会えると夢に描いていた。
しかしその夢があっけなく消え去った今、あの二人の状況は当たり前ではないことを知る。
「結婚しても離婚する人だっている。結婚って、夢で語れるほど簡単なものじゃないんだって気付かされました」
「……」
「あ、でも! 今は気付いてよかったなって思ってるし!」
またネガティブなことを言ってしまったので慌てて前向きに変えようと辺りを見渡すと丁度車は海辺に沿う道に出た。
夜の海は真っ暗だが、夏休みということもあって若者がたむろっていたりと少しだけ騒がしい。
「ちょっと寄り道するか?」
「え?」
振り返ると運転席で微笑んでいた彼が自然な流れで左折の合図を出した。