間宮さんのニセ花嫁【完】

後悔とともに、朝




私に残された時間はあと二週間。それまでに何とか人前で披露しても大丈夫なくらいには茶道をマスターしなければ。


「何読んでるの?」

「っ……」


かけうどんの器が乗ったトレーを持ってテーブルに戻ってきた弥生に私は開いていた本を勢いよく閉じる。
彼女は私の目の前の席に座ると「ちょっと見せて」とその本を渡すように促してきた。


「た、ただの小説だって」

「だって飛鳥が読書なんて珍しいから。何読んでたの?」


鞄の中に隠そうとしたがあまりにしつこいので私は持っていた本のカバーを外して弥生に表紙を向ける。
『茶道の基本』と書かれたタイトルに彼女は意外そうに「へぇ」と、


「茶道? どうして急に?」

「ちょ、ちょっとハマったというか」

「ふーん、なんか飛鳥のイメージに合わないかも」

「そ、そんなことないよ!」


いや、そんなことあるのか!? だから未だに梅子さんに認められてないのかも。少しでも茶道が似合う女性になるにはどうしたらいいんだろうか。
どうすれば、と悩んでいると伸びないうちにうどんを飲み込み始めた彼女は口を動かしながら、


「茶道は置いといて、飛鳥が何かに打ち込むのはいいと思うわ。意外性があって」

「意外性?」

「今までの趣味って彼氏に合わせたやつが多かった気がするし」


確かに、これといって趣味というものがなかった私はよく彼氏である聡の趣味に合わせていた気がする。
好きな音楽も服のタイプも、デート先も聡は人が多いところが苦手だったから静かなところか家デートが多かった。


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