間宮さんのニセ花嫁【完】
私はこれまでのことを振り返りながら本にカバーを被せた。
「ちょっと新規開拓というか、いい女を目指そうかなって思ってね」
「お、いいね。じゃあ新規開拓ということで私が推してるアイドル追っかけようよ」
「またそれかい」
チケットあるからさ!と押しの強い弥生に困っていると「お! 発見!」という声とともにやってきたのは同じ部署で働く柳下くんだった。
私たちよりも歳下の後輩だが体が大きく、こちらに手を振りながら元気に駆け寄ってくる姿はまるで大型犬のようだ。
「探してたんですよ、一緒にご飯食べましょ」
「お前は女子か! まあいいけど」
「え、佐々本さんそれだけですか? 少なくないですか?」
弥生の隣の席に座った柳下くんが私の手元にあるサンドイッチを見て驚く。
着物を着た時に見栄えがいいようにダイエットを始めたのだが、彼が運んできたトレーに乗っている大盛りのカツカレーに比べたらカロリーの量は少なくみえてもおかしくない。
「柳下こそ食べすぎでしょ、太るよ」
「食べ盛りなんで。あと俺太ったことないですから!」
「うわ! 女子の敵すぎる!」
大きなポークカツを口に放り込む柳下くんに弥生が苦言を呈す。その微笑ましい会話を聞いてクスクスと笑っていると柳下くんがカツを咀嚼しながら珍しそうに私を見る。
「なんか佐々本さん雰囲気変わりましたねー。完全に元彼のこと吹っ切れたって感じですか?」
「柳下、アンタにはデリカシーっていうのがないのか」