新婚蜜愛~一途な外科医とお見合い結婚いたします~

「お母さんは、さ。お父さんの昔の恋人、気にならなかった?」

 母と父の馴れ初めとか、そういう話は聞いた覚えがない。

「ヤダ。そんな話? そうね。気にならなかった、というより、気にしていたら身がもたないじゃない? 結愛のお父さん、モテたから」

 あっけらかんと言う母は、やっぱりすごいなあと思う。
 私はダメだ。気になって仕方がない。

 前に、たまたま見かけてしまった。
 あのブュッフェのお店で私に話しかけてきた女性と、省吾さんが話しているところを。

 遠くから見ただけだから、人違いだったかもしれない。

 彼には悟られないように急いで帰って、いつも通りの顔をして出迎えた。
 帰ってきたあとの省吾さんは、どこかおかしかったから、やっぱりあの時の女性となにか話したのだと思う。

 彼が「もう必要ないかもしれませんね」と言った練習。
 それは私が『異性に慣れるための練習』を指しているのだろうか。

 練習が必要なくなったら、どうなるんだろう。

 彼とは形式上、一緒に眠るようにはなった。
 けれど、夫婦としての触れ合いはキス以上はなにもない。

 いつもなにか考えているような彼に、寂しさを感じていた。


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