新婚蜜愛~一途な外科医とお見合い結婚いたします~

 それから少しして、省吾さんが抜け殻のような顔をして言った。

「父が隠居したいそうだ」

「隠居って」

「一線から退きたいと」

「え、じゃ、中村医院……」

「心配しなくとも、弟がいるから」

 まだ見ぬ彼の弟さん。

 急な結婚だったため、医師の弟さんと省吾さんとの休みを合わせるのは難しく、結婚式には呼べなかった。

 普段も会う機会はなく、そのまま来ている。

 その弟さんが中村医院は継ぐと、前に言っていた。
 だからって……。

「省吾さんは、産業医をしていて本当にいいんですか?」

 産業医が悪いとは思わない。
 大切な仕事だ。けれど……。

「君も、同じなんだね」

 彼は傷ついた顔をして、それから続けて言った。


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