新婚蜜愛~一途な外科医とお見合い結婚いたします~

「私の初恋はたぶん省吾さん、あなたです」

 あまりにも夢物語のような言葉に、乾いた笑いが落ちる。

「今が、と言いたいんですか」

「いいえ。8歳の頃からずっと」

 断言をする彼女がにわかに信じられなくて、彼女を見つめる。
 彼女の顔に迷いはなく、晴れやかだった。

「トラウマに、なっていたじゃないか」

 私は弱々しく反論をする。
 どうしたって受け入れ難く、信じることは難しい。

「キスをして会えなくなって、それがトラウマになるくらい、私は17歳の省吾さんに恋をしていました」

「ハハ。8歳で?」

「8歳だって立派なレディです。だから、あの時も年齢を飛び越えて、私たちは恋をしたんです」

 トラウマは、キスや私の口止めが原因ではなく、私が彼女の前から姿を消したせいなのか。

 考えもしなかった、ひとつの可能性。

 本当に、そうならば。
 今、私が彼女の前から姿を消せば、再び彼女のトラウマになってしまうのかもしれない。


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