新婚蜜愛~一途な外科医とお見合い結婚いたします~

 思えば、新婚旅行で人生初めてのキスをしたと思っていたのに、実際は違っていた。

 人生初めてのキスは省吾さんで間違ってはいなかったけれど、小学生の私が突然しでかしたキスだったとは。

 昔の私に備わっていた無鉄砲さと、勇気が羨ましくなる。

 昔の自分に思いを馳せていると、彼は新しいパジャマとタオルを手にして戻ってきた。

「後ろ向いてるから着替えて」

「ありがとうございます」

 私に着替えを渡した彼は、ベッドに背を向け、もたれかかるように座った。
 私はベッドから起き上がり、着替えを手にする。

「一人で着替えられる?」

「はい」

 彼は穏やかで優しい声色で話す。
 背を向けたままの私への気遣いに、胸が温かくなる。

 いつもの彼が戻った気がして、彼の後ろ姿に無性に抱きついてしまいたくなった。

「産業医をしたい理由を、話したかな?」

「あ、いえ」

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