新婚蜜愛~一途な外科医とお見合い結婚いたします~
「あ、あの。私、誰ともこのような経験がなくて、ですね」
彼の隣、ベッドに座る勇気は到底なく、ドアのすぐ近くで立ち尽くす。
握りしめる両手は暑くもないのに汗が滲む。
滞りなく順に入った浴槽。
先に済ませた彼はバスローブを身につけ、凛とした表情で背筋を伸ばしてベッドの端に座っている。
その姿勢正しい姿とは相反した、胸元から漏れ出る艶かしさに目を背ける。
自分も同じものを身につけているはずなのに、天と地ほどの差があるように感じる。
けれど。
どんなに彼が素敵だろうとも。
私は恐れ多くも、彼に恋はしていない。
彼もまた、私に恋などしていない。
そして、お互いにそれを了承した上で結婚をした。
不釣り合いだとしても、恋をしていなくても。
新婚初夜なのだから、ホテルの寝室で夫である彼と向き合っていても咎める者は誰もいない。
おずおずと胸の内を打ち明けた私に、彼は穏やかに首肯した。
「そうですか。分かりました」
理解を示してくれた返答に、胸を撫で下ろしたのも束の間。
省吾さんは立ち上がり、私に歩み寄った。
心理的にも物理的にも距離を取りたくて後退っても、すぐに背後のドアにぶつかってしまう。
揺れる瞳を向けると、穏やかな眼差しを真っ直ぐに向ける彼は、私の手を取り、ベッドへといざなうように導いた。