新婚蜜愛~一途な外科医とお見合い結婚いたします~
『実は一目惚れしました』と言われるような夢見心地な幻想を抱けるほど若くはない。
彼にも、そう伝えてある。
その時は苦笑しながら「若いですよね?」と彼は言った。
「一目惚れを信じるのは、10代までと相場が決まっています」
「そうとは知りませんでした」
そう言ってクスクス笑った。
初めて見た笑顔だった。
笑顔が素敵なんて、狡いと思った。
少年みたいに、かわいらしく笑うなんて。
そして彼の言い分はこうだ。
「正直に言います。私ではなく父に恋心を抱く結愛さんに興味が出た、と言ったら信じてくださいますか」
「ファザコン、ですか?」
「ファザーコンプレックスですか。確かにそれも一理あるかもしれませんね」
「私も、ファザコンの一種で中村先生に憧れているのは分かっています」
「それは分かっているのですね」
「ええ、それはもちろん」
彼の言い分を半分も理解できないまま、結婚してしまった。
そしてその謎は今もわからないまま。
私は彼の職業や外見に惹かれる女性よりも、もっとタチが悪いのかもしれない。
憧れの人の息子だから。
そんな理由もあるからこそ、彼と結婚できているのだから。