新婚蜜愛~一途な外科医とお見合い結婚いたします~

 彼との出会った頃に思いを馳せていると、離れた席でなにやら騒がしい。

<どうしたの? ねえ、あなた!?>

 現地の人なのか、早口で言葉が聞き取れない。

「すまない。少し様子を見てきます」

 省吾さんは私に断りを入れてから、彼らの席まで歩み寄っていく。

<失礼。私は医師です。どうかされましたか>

<主人が急に返事をしなくなって>

「これはまずいな……」

<急いで救急隊を!>

 省吾さんはウェイターに、なにか頼んでいるようだ。
 離れた席からも、緊迫した空気が伝わってくる。

 しばらしくして救急隊が到着し、男性を運んでいく。
 省吾さんは状況を伝えているのだろう。
 救急隊の人と話し、救急車を見送ってからこちらに戻ってきた。

「せっかくのディナーにすみません」

「いえ。やっぱり省吾さんも如何なる時も医師なんですね」

「無理しなくていいです」

 手を握られ、震えていると初めて気付く。

 どんな時も自分の使命を全うする彼を誇らしく思うと同時に、自分が彼の妻でいいのか、改めて不安に思う。

 彼は私と結婚まで思い立った、様々な理由を話してくれた。
 その中にあった私が思う一番の理由は、『結婚して周りからの信頼を得るため』だ。

 そうであるのなら、私でなくていい。

 もし、彼の妻が私ではなく、看護師なら? 女医なら?
 彼とともに、せめて足手まといにはならずにいられた。

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