新婚蜜愛~一途な外科医とお見合い結婚いたします~

 スーツ姿の彼は玄関で革靴を履き、振り返る。
 一段下がったところにいる彼とは、いつもより近く感じるようで胸がドキドキと騒がしい。

「結愛さん。いってきます」

「はい。いってらっしゃいませ」

 顔を上げられずにいると、クスクスと笑う声がして、恐る恐る上目遣いで様子を伺う。

 一瞬、目があって、それから頭をコツンとぶつけられた。

「なにごとも慣れですよ。しかし私も重大なことを忘れていました。今から仕事へ行く結愛さんが、一日話せないのは困りますよね」

「あ、そうでした」

 気が抜けて、力なくハハハと笑うと、頬を緩ませた省吾さんが、私の頭に手を置いて数度撫で回した。

「キス、し損ねた」

「え」

 目を丸くした私を残し、省吾さんは出て行った。
 閉まり行くドアを惚けた顔で見つめる。

『キス、し損ねた』

 まるで、心待ちにしてたのにと、残念がっているみたいな言い方。

「わー、ううん。違う。違うよ。うん。省吾さんの言葉は話半分!」

 分かっているのに、顔から順に体じゅうが熱くなり、その場に立ち尽くした。

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