新婚蜜愛~一途な外科医とお見合い結婚いたします~
「決めつけるのは失礼じゃないですか。栗原さんだって、恋人と離れ難い朝くらい経験があるでしょう」
声は変わらない呆れ声なのに、真っ直ぐに見つめられて言葉に窮する。
そこはかとない色気を醸し出す彼から、視線を逸らす。
「いえ、そんな経験は……」
急に今朝、上目遣いで盗み見た彼の唇を思い出す。
数度重ねたことのある唇は、思っていたよりも柔らかくて、そして……。
「栗原さん、大丈夫? からかい過ぎちゃってごめんなさいね」
腕から解放され、我に返る。
いけない。
また彼の魔法にかかりかけている。
「いえ、お邪魔しました。あの、健康診断、よろしくお願いします」
「ええ、こちらこそよろしくお願いします」
私が想いを寄せているのは、彼ではない。
彼のお父様だ。
会社という日常に戻ると、忘れかけていた自分の置かれた状況を思い出す。
彼もまた、私に気持ちがあるから結婚したわけじゃない。
それなのに、彼に見つめられると勘違いしそうになる。
お互いに愛し合っている、と。
それとも、この際、勘違いした方が幸せなのかな。
惚けた考えが浮かび、慌てて頭を振ってその考えを追い出した。