新婚蜜愛~一途な外科医とお見合い結婚いたします~
後退りながら部屋から出ようとした時、視界の端に気になるものを捉えた。
引き出しから、はみ出している紙。
ほんの少しだけ。
白い紙がほんの少しだけ見えるそれが、何故だか胸に引っかかった。
整然とした部屋の僅かな綻び。
吸い寄せられるように近づき、引き出しを開けた。
引き出しに挟まって、角がひしゃげた紙。
目に飛び込んできた情報に、胸がドクンと嫌な音を立てた。
『婚姻届』
文字も枠線も茶色の落ち着いた書類。
人生で一度しか見る機会はないものだ、そうであってほしい、そう思っていた。
夫になる人の欄には、几帳面な字で書かれた『五十嵐省吾』
妻になる人の欄には、見慣れた自分の字で『栗原結愛』とある。
「どうして……ここに」
結婚、したとばかり……。
震える手で婚姻届を奥にしまい、引き出しを閉じる。
よろよろとよろけながら、書斎から退散した。