新婚蜜愛~一途な外科医とお見合い結婚いたします~

「すみません。無理を言いました。おやすみなさい」

 自分ばかりが想っている事実を改めて目の当たりにして、虚しさが込み上げる。
 ドアを開け、部屋に入ろうとすると、腕を引かれた。

 彼女から触れられたのは初めてで、目を丸くする。

「違うんです。嫌なわけじゃ……」

 引き留めてまで、伝えたい言葉なのかと深読みしたくなる。

 そうまでして、私とキスをしたいのだと。
 そんなはず、あるわけがないのに。

「無理しないでください」

 過度な期待をしそうになり、押しとどめるように彼女に伝える。

 彼女を思いやっていないわけじゃない。
 ただこれ以上は、もう……。

 健気に「無理はしていません」そう儚げに告げられると思っていた。
 それで、結局は優しく触れるだけのキスをするのだと。


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