新婚蜜愛~一途な外科医とお見合い結婚いたします~

 その予想に反して、彼女はなにかを思い詰めたように力強く私を見上げた。

「私は、省吾さんと夫婦になりたいんです」

「え、ええ」

 突然の宣言に面食らっていると、私のシャツの襟元に手を伸ばし、ぐっと引き寄せられた。
 よろめきそうになり、慌てて踏ん張ると彼女から不満げな声を聞いた。

「私から、したかったのに、キス」

 思わぬ言葉に力が抜け、壁に背を預けてズルズルとしゃがみ込んだ。
 手を額に当て、熱くなる顔を覆う。

「どうして、と聞いても?」

「どうしても、です」

 覆っている手を取り払われ、固い決意をした瞳に見据えられた。
 しゃがみ込んでいる私に、彼女は被さるように体を屈める。

 胸ぐらをつかむように引き寄せられ、触れるというよりも、唇が当たり、勢い余って歯がカツンと当たった。

「……下手くそ」

 ぼやいて、彼女の後頭部に手を添える。
 引き寄せて、彼女の唇に自分のそれを重ねた。


< 57 / 229 >

この作品をシェア

pagetop