新婚蜜愛~一途な外科医とお見合い結婚いたします~

「あの、少しオブラートに包んでほしいです」

「オブラート。懐かしいですね。子どもの頃、薬を飲むのが下手で、母がオブラートに包んでくれました。それなのに、オブラートを上顎に引っ付けてしまって……」

 懐かしむように、目を細めていた省吾さんの目が怪しく弧を描く。

「小椋さんに文句が言えなくなってしまうな」

 口元にこぶしを当て、苦笑する省吾さんへ聞き返す。

「なにがです?」

 省吾さんは当てていたこぶしで口元を覆い、とんでもない発言をした。

「上顎に張り付いたオブラートを思い出して、無性に結愛さんとキスがしたくなった」

「へ」

 間抜けな声が出ると、顔を背け、目だけこちらに寄越して省吾さんは続けた。

「上顎に舌を這わせたいって……」

 それだけで昨日の彼の息遣いに、彼の唇の感触、それに、彼の……。
 鮮明に思い出しそうになって、慌てて頭から追い出すように声を上げる。

「うわ、省吾さん、朝ですよ。清々しい朝になにを言っているんですか」

「ええ。自分がこんなにエロジジイとは知りませんでした」

 涼しい顔をして、飄々と言ってのける省吾さんに憤慨する。

「話せなくなります。困ります。その件に関しての話題はおしまいです」

「そうですか。しかし、話題にするのは平気そうですよ」

 にっこりと微笑まれ、呆気にとられる。

「もしかして、大丈夫かどうか試すために?」

「さぁどうでしょう」

< 66 / 229 >

この作品をシェア

pagetop