新婚蜜愛~一途な外科医とお見合い結婚いたします~

「また失念するところだった。泣き止ませたくてキスをしたら、泣き止むどころか、話せなくなるのは困るからね」

「あの、話し方が……」

「ん?」

「いいえ。今の方が好きです」

「なにが?」

「なんでもありません」

 小さな子に話すような柔らかな言葉運び。
 敬語ではない、彼の言葉は優しくて温かい。

「結愛さんのお母さんが「旅行に行くので結愛をよろしく」って。それで「見た目よりも寂しがり屋だから、側にいてあげてくださいね」と言われたよ。見抜かれているのかなと少し焦った」

「見抜かれて?」

「いや、うん。私たちの微妙な関係を」

 微妙な関係。
 省吾さんはなにをもって、微妙と言いたいのだろう。

 利害が一致したから結婚した私たち。
 人に大きな声で言えない間柄ではあるけれど、関係性ははっきりしている。

 微妙なのは心の所在。

 省吾さんは、私をどう思っているのだろう。
 どう思っていて、どうしてキスを、それにそれ以上も。

 夫婦になりたいから?
 夫婦になりたいのは、どうして……。

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