新婚蜜愛~一途な外科医とお見合い結婚いたします~

 私の手には小さなケース。
 軽く振ると中身がカラカラと音を立てる。

 それを見つめていると、小椋さんに呆れられた。

「奥様を思い出して、顔を緩ませないでください」

「すみません。どうにも表情筋が馬鹿になっているようだ」

「いえ、無表情でいられるよりも、親しみやすくて助かります。けれど、他の方に見られると変なファンが増えそうですので、そういう意味ではうんざりします」

「肝に銘じておきます」

 私はケースを開け、中身を口に運ぶ。
 中にはナッツやドライフルーツが入っている。

 事の発端は、結愛さんと何気なく話した会話が始まりだった。

 医師の仕事は忙しく、昼食は抜く時が多い。

「それでは体によくありません。今はよくてもいつか、医者の不養生になってしまいます」

 どこか怒ったように言う結愛さんが、後日私にこのケースを渡した。

「これでしたら、忙しい合間に食べられると思うのですが」

 押し付けがましくない気遣いが嬉しかった。
 お陰でケースを見る度に、腹だけでなく心も満たされるような気がした。

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