新婚蜜愛~一途な外科医とお見合い結婚いたします~
「結愛さん、でしたよね?」
神田先生が追いかけてきて、お手洗いに向かう通路で話しかけられた。
彼は名刺を差し出している。
「よろしければ連絡ください。医師は忙しい。恋人も妻もシェアし合うのが普通です。あなたも五十嵐先生と結婚されたのですから、そのくらい承知していますよね」
シェア、とは、大皿料理を頼んで仲間内で取り分けて食べたりする、アレのことだろうか。
脳裏に良からぬ映像が浮かんでゾッとする。
神田先生は、万人受けしそうな柔らかな笑みを浮かべている。
聖人君子顔負けの清らかそうな表情に、ますます背筋が凍りつく。
彼としては普通の誘いをしただけなのだと、嫌でも思い知らされる。
神田先生は私の手の中に名刺を押し込むと、何食わぬ顔で再び料理を選びに行った。
省吾さんの医師としての姿を知りたいとは思った。
けれど知りたかったのは、こういう姿じゃない。
私たちの結婚に愛はなかった。
それは承知の上で、結婚を承諾した。
私にとって彼は憧れの人の息子で、世間一般に見てイケメン医師なだけだった。
けれど、今は……。