新婚蜜愛~一途な外科医とお見合い結婚いたします~
朝になると彼女は料理を作っていた。
「あ、おはようございます。ちょうど朝食出来上がりました。食べられますか」
「え、ええ」
パタパタと動き回る彼女は、明るい笑顔向ける。
食事をしている間も、何事もなかったように会話をする。
全て、今まで通りだ。
食事を済ませ、滞りなく準備を済ませる。
玄関に向かい、胸を痛くさせながら振り返った。
「今日も、どこか外で食事をしませんか」
「今日は……その、マンションの方がゆっくりできますし」
やんわりと断られ、言葉を続けられない。
一段下がったいつもより近い距離。
彼女に触れたいのに、それは叶わない。
触れられる距離にいるのに、それが余計に切なくさせた。
「省吾さん?」
「ああ、すみません。ぼんやりしていました。いってきます」
「はい。いってらっしゃいませ」
いってらっしゃいのキスをするしないと、じゃれ合っていた頃が懐かしい。
胸の痛みを感じながら、雑踏の中に紛れた。
心さえも紛れてしまえばいいのに、と思いながら。