お忍び王子とカリソメ歌姫
夢の終わり
ざざっと船が波を切ってゆく。甲板からそれを見ながらサシャは、ぼうっとしていた。
海はどこまでも続いているように見える。いっぱいにたたえられた水はとても冷たそう。
十二月もあと数日で終わるのだ。そうすれば一月、新年。
明日からは連日バーでの仕事が入っていた。年末年始の、ニューイヤーパーティーがおこなわれるためだ。一番のかきいれどきである、クリスマスイヴもクリスマス当日もお休みをもらってしまったのだし、一日だって休めないだろう。
たとえ酒を飲んで馬鹿騒ぎをする男たちがメインの、クリスマスのロマンティックとはほど遠いバーだとしても、いや、だからこそか。歌姫は貴重なエッセンス。そんな日に両方お休みなど。
しかしクリスマスパーティーに参加するためにはバーにお休みをもらうしかなかった。当然、マスターには「困るよ」「せめてどっちか」と渋られ、粘られたけれど、シャイとの約束を優先せざるを得ない。
そしてそれを事前に予測していたシャイが、「俺の用事に付き合ってもらうんです」と説明し、八割がた嘘であったがもっともらしい理由をとつとつと述べてお願いしてくれた。
そう、シャイが。
頭を下げてまで。
そのシャイ。さっき港を出てきた国では『ロイヒテン様』。結局、あのあと二人きりで話すことは叶わないまま別れてしまった。無理にでも時間を作って話をしてくれると思っていたので、サシャは拍子抜けしてしまった。
それと同時に残念にも思った。そして今では疑問にも思ってしまう。
あれは本当に、あのあとに続くはずだったのは自分を想ってくれる言葉だったのだろうか。
ただ、しつこく絡んできたエリザベータ様を去らせるためだけのものだったのでは。
そんなことすら頭に浮かんでしまう。
そんなことはないと、思うんだけどな。
サシャはやっぱりぼんやりと、甲板の下を見た。つめたい水が勢いよくかきわけられていく。
一睡もできずに迎えた、翌朝。朝食をいただいて、食休みをしただけでお城をおいとました。そして今、こうして国に帰るために船旅をしている。ミルヒシュトラーセ王国には長くいるわけにもいかないのでそのほうが良かった。
なのでタイミングがなかったことも別におかしいというわけではない。それでもすっきりしない帰路になってしまったのは仕方が無いだろう。
この船が港に着いたら、おつきのひとたちともお別れすることになる。小さな宿の部屋を借りて普段着に着替えて、港のある隣町から、暮らす街まで粗末な馬車で帰るのだ。それは当たり前のように今までしてきたようなことなのに、何故か色あせるように感じてしまった。
「あまりお外におられると冷えますよ」
行きも迎えに来てくれたおつきの男性に声をかけられたので、サシャは振り向いて「ありがとうございます」と言った。
確かにここはだいぶ冷える。水の上で、しかも風を切るように走っているのだから当然だろうが。
風邪を引いてしまっては、明日からの仕事に障るだろう。なのであたたかい船内に居ようと、サシャは甲板を去った。
あたたかいお茶でもいただこう、と思う。寒い場所にいるより、あたたかい船内、あたたかい飲み物でも飲んだほうが、気持ちも落ち着くだろう。
海はどこまでも続いているように見える。いっぱいにたたえられた水はとても冷たそう。
十二月もあと数日で終わるのだ。そうすれば一月、新年。
明日からは連日バーでの仕事が入っていた。年末年始の、ニューイヤーパーティーがおこなわれるためだ。一番のかきいれどきである、クリスマスイヴもクリスマス当日もお休みをもらってしまったのだし、一日だって休めないだろう。
たとえ酒を飲んで馬鹿騒ぎをする男たちがメインの、クリスマスのロマンティックとはほど遠いバーだとしても、いや、だからこそか。歌姫は貴重なエッセンス。そんな日に両方お休みなど。
しかしクリスマスパーティーに参加するためにはバーにお休みをもらうしかなかった。当然、マスターには「困るよ」「せめてどっちか」と渋られ、粘られたけれど、シャイとの約束を優先せざるを得ない。
そしてそれを事前に予測していたシャイが、「俺の用事に付き合ってもらうんです」と説明し、八割がた嘘であったがもっともらしい理由をとつとつと述べてお願いしてくれた。
そう、シャイが。
頭を下げてまで。
そのシャイ。さっき港を出てきた国では『ロイヒテン様』。結局、あのあと二人きりで話すことは叶わないまま別れてしまった。無理にでも時間を作って話をしてくれると思っていたので、サシャは拍子抜けしてしまった。
それと同時に残念にも思った。そして今では疑問にも思ってしまう。
あれは本当に、あのあとに続くはずだったのは自分を想ってくれる言葉だったのだろうか。
ただ、しつこく絡んできたエリザベータ様を去らせるためだけのものだったのでは。
そんなことすら頭に浮かんでしまう。
そんなことはないと、思うんだけどな。
サシャはやっぱりぼんやりと、甲板の下を見た。つめたい水が勢いよくかきわけられていく。
一睡もできずに迎えた、翌朝。朝食をいただいて、食休みをしただけでお城をおいとました。そして今、こうして国に帰るために船旅をしている。ミルヒシュトラーセ王国には長くいるわけにもいかないのでそのほうが良かった。
なのでタイミングがなかったことも別におかしいというわけではない。それでもすっきりしない帰路になってしまったのは仕方が無いだろう。
この船が港に着いたら、おつきのひとたちともお別れすることになる。小さな宿の部屋を借りて普段着に着替えて、港のある隣町から、暮らす街まで粗末な馬車で帰るのだ。それは当たり前のように今までしてきたようなことなのに、何故か色あせるように感じてしまった。
「あまりお外におられると冷えますよ」
行きも迎えに来てくれたおつきの男性に声をかけられたので、サシャは振り向いて「ありがとうございます」と言った。
確かにここはだいぶ冷える。水の上で、しかも風を切るように走っているのだから当然だろうが。
風邪を引いてしまっては、明日からの仕事に障るだろう。なのであたたかい船内に居ようと、サシャは甲板を去った。
あたたかいお茶でもいただこう、と思う。寒い場所にいるより、あたたかい船内、あたたかい飲み物でも飲んだほうが、気持ちも落ち着くだろう。