しずくの恋
流山くんの瞳に私の姿が映る。

もう、これだけで十分だった。
一生分の幸せをもらった気がした。


凛とした姿勢で流山くんがゆっくりと口を開く。


「桐原さん。あのおじいさんのことは気にしなくて大丈夫だよ。

酔っぱらってる人を怖いって感じるのは当然だと思うし、

本当にヤバイ人だったら桐原さんが危ない。
マエガラのことも、気にしてくれてありがとう。

桐原さんが気にしてることに、全然気づかなくてごめんな」


その柔らかい表情と、優しい言葉に緊張はほぐれていくけれど、

流山くんの遠慮がちに言葉を紡ぐその表情と
私に気を遣うそのしぐさから、

その次に伝えられる言葉が分かった。


「それから、告白もありがとう。
正直、びっくりしたけど…、ありがとう。

でも、俺は桐原さんの気持ちには応えられない。ごめん。

俺、ずっと好きだった子にさっき振られたんだ。
しばらくその子のことを忘れることはできないと思う」

誠実さをにじませて、
流山くんはそう言って深く頭を下げた。


そんな流山くんに
ぶんぶんと首を横に振った。

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