腹黒王子の初恋

プロローグ

　「文月(ふづき)くん、おはよー」
　「おはようございます。」
　「あ、文月くんだー。おはー！」
　「おはようございます！」
　
　今日の調子もなかなか。

　【星文具】に新入社員として就職して半年、やっと慣れてきた。会社の人間関係も大体把握して自分のするべき立ち振る舞いもわかってきた。

　「おはよう、文月。今日もがんばれよ。」
　「はい！がんばります。」
　
　人間関係もうまくいってるんじゃないかと思う。特に女性社員には人気あるけど。男性社員ともまずまずの関係を作れている。生まれてからずっとこの容姿と対人スキルのおかげで人間関係で困ったことはない。いつも人と笑顔にあふれている。この顔に産んでくれた両親に感謝だな。　

　「おはよう。これあげる。」
　「あ、ありがとうございます。これ好きなんです。」
　
　もらった飴を握りしめて笑顔でそう言うと、女性社員は頬を染めて走って行った。

　「文月くんと話しちゃった！やばー！かわいい～」
　「よかったね」
　「あー癒される」

　遠くで話しているのが聞こえる。他にも多くの視線を感じるし、俺の話をしているのもあちこちで聞こえる。昔から慣れている光景だ。
　
　「朝から文月王子見れてラッキー。」
　「私も営業に配属されたい」
　「営業には文月くんと辻(つじ)くんいるもんね」

　そう。4か月間の新人研修を受け、営業に配属されてから2か月がたった。まだまだ営業についての仕事はわからないことばかり。

　「おはようございます！辻先輩！」
　「お。文月おはよう。今日もさわやかだな。」
　
　この人は俺のお世話係をしてくれている辻泰晴(つじ　たいせい)。俺より3歳年上の25歳。入社4年目だ。
　
　辻先輩は営業成績ナンバー3までを常にキープし、社内人気ナンバーワンである。何と言っても俺に負けず劣らずの整った容姿。ツーブロックの短髪ショートは清潔感を感じさせる。くっきり二重の目元は爽やかだ。そして明るく周りを和ませる雰囲気と笑顔を持つ彼は営業職が天職たと言えるだろう。
　
　彼の仕事ぶりを近くで見て覚えることができ、彼の周りに自然と人が集まるから俺も目にとめてもらえる。そんな先輩の下につけたことが本当にラッキーだ。でも、正直完璧すぎて少々気にくわないこともなきにしもあらず…身長も185センチを超えるだろう。俺よりも高い…