腹黒王子の初恋
「あの…辻くんいますか。」
かすかにか細い声が聞こえた。あ、鉄女だ。
「今席外していますよ。」
そう笑顔で答えた。
「それでは、これを渡してください。」
またしてもか細い声で彼女は答える。視線は下。無表情。
「わかりました。」
手を少し触って資料を受け取った。彼女がはっとしたのが雰囲気でわかった。が、相変わらず目は合わない。無表情。鉄女の噂は伊達じゃない。俺は去って行く彼女の後ろ姿をしばらく見ていた。手元の印刷物には「がんばってね^^」と書いたポストイットが貼られていた。
【鉄女】と噂される彼女は入社4年目の総務課に属する梢優芽(こずえ ゆめ)。辻先輩と同期入社だ。その年は2名の入社しかいなかったと有名な入社氷河年。辻先輩と同じく入社時からエリートとされている彼女だか、能力よりも鉄女という名前だけが一人歩きしている。
鉄女と言われる所以はまず終始無表情だということ。仕事以外で話す様子もない。見た目も地味。黒縁の眼鏡。セミロングの黒髪を一つで結ぶ。服装は働きやすさを重視したグレーのカーディガンと黒のパンツ。安定の地味さ。
普通俺と目が合えば何かしらの反応があるのに、あの無表情。ああいう地味女は俺みたいなタイプを毛嫌いするんだろうか。
「お疲れ様です。」
「あ、あ、文月くん、おつかれさま」
給湯室で会った女性社員に挨拶をする。笑顔を向けると頬を赤くして彼女も笑顔になる。普通の反応はこうだろ。あの地味女がおかしい。思い通りにいかない。
かすかにか細い声が聞こえた。あ、鉄女だ。
「今席外していますよ。」
そう笑顔で答えた。
「それでは、これを渡してください。」
またしてもか細い声で彼女は答える。視線は下。無表情。
「わかりました。」
手を少し触って資料を受け取った。彼女がはっとしたのが雰囲気でわかった。が、相変わらず目は合わない。無表情。鉄女の噂は伊達じゃない。俺は去って行く彼女の後ろ姿をしばらく見ていた。手元の印刷物には「がんばってね^^」と書いたポストイットが貼られていた。
【鉄女】と噂される彼女は入社4年目の総務課に属する梢優芽(こずえ ゆめ)。辻先輩と同期入社だ。その年は2名の入社しかいなかったと有名な入社氷河年。辻先輩と同じく入社時からエリートとされている彼女だか、能力よりも鉄女という名前だけが一人歩きしている。
鉄女と言われる所以はまず終始無表情だということ。仕事以外で話す様子もない。見た目も地味。黒縁の眼鏡。セミロングの黒髪を一つで結ぶ。服装は働きやすさを重視したグレーのカーディガンと黒のパンツ。安定の地味さ。
普通俺と目が合えば何かしらの反応があるのに、あの無表情。ああいう地味女は俺みたいなタイプを毛嫌いするんだろうか。
「お疲れ様です。」
「あ、あ、文月くん、おつかれさま」
給湯室で会った女性社員に挨拶をする。笑顔を向けると頬を赤くして彼女も笑顔になる。普通の反応はこうだろ。あの地味女がおかしい。思い通りにいかない。