腹黒王子の初恋
 壁にもたれ携帯をみているゆうきゅんを発見。うわぁ。ゆうきゅんの私服。大き目シャツにチェックのズボン。キャップもかぶっている。いやー!可愛すぎる!

 通りすぎる女の子たちがチラチラ見てる。だろうだろう!かわいいだろう!わかるよー!何だか自分が誇らしげになる。

「文月くん、おはようございます!おつかれさまです!」

 意を決して目の前の王子に話しかけた。

「あ、梢先輩、おはようございます。あはは。会社みた…」

 私は一瞬ゆうきゅんの顔を見てすぐ胸元に視線をずらした。よかった。いつものゆうきゅんだ。そんなに怒ってなさそう。

 ゆうきゅんの言葉が止まる。どうしたんだろうと思っておそるおそる視線を上げるとゆうきゅんとばっちり目が合った。瞬間…

「…っ!」

 おもいっきり目をそらされた。私も思わずゆうきゅんの視線の先を見てしまった。

「…なんか会社で会ったみたいですね。おかしい。ふふっ」

 ん?何もないけどな?

「今日水族館行きましょう。ここから近いんです。」
「水族館…」
「ちょうど紅葉がきれいなんでゆっくり歩いて行きましょう。」
「は、はい…」

 私たちは銀杏の木が色づく道を歩き始めた。本当だ。もうそんな時期だね。きれい。視線を感じゆうきゅんの方を向くと目が合った。が、また目をそらされた。

「ね、きれいですよね!」

 うん…いつも通りに爽やかに笑顔だけど…。

 その後、特に話をすることなくゆうきゅんは黙ってしまった。何だか様子がおかしい。やっぱり怒っているんだろうか。それなのに水族館とか?う~ん。

 沈黙が苦しい。いつもならゆうきゅんがたくさん話してくれるのに。息苦しさがプラスされて私の緊張はマックスになっていた。
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