腹黒王子の初恋
「で。辻先輩のことどう思ってますか?」

 また泰晴のことを聞いてくる。もしやゆうきゅんも泰晴大好き同志か。

「う~んと…泰晴はすごいですよね。」
「はい…すごいです。」
「仕事もできて、明るくて、気さくで…」

 ぼつぼつと話し始めた。でも泰晴のことをこんな言葉だけではうまく表せない。

「うまく言えないけど、すごくすごく大切な人」
「…」

 ゆうきゅんが黙って聞いている。

「私はこんなんで人見知りがひどいけど、それを理解してくれてる。今会社でやってけるのも泰晴のおかげかな…」
「はい…」
「あと、私の妄想癖知ってますよね。初めてバレたときも全然仲良くないのに、うわ。変態かよ。ってあの太陽みたいな笑顔でバッサリ。ああ。この人の前では素でいいなあって思えました。」
「…」
「私、泰晴の笑顔が大好きなんです。いろんな不安を吹き飛ばしてくれるような…」

 はっ。話しすぎた。ゆうきゅんが黙って聞いてくれるから!恥ずかしー!!

「何、その笑顔。辻先輩の話をする時、すごくいい顔しますね…」
「ん?いい顔?…なんかいっぱい話してすみません…」
「はーっ…」

 またため息。

「全然勝てる気がしない。」
「えっと…泰晴に勝てる人はいないです。いや、張り合うのが間違ってる。」
「うっ。そんなに否定します?ショックです…」

 ゆうきゅんがわかりやすく落ち込む。あわわわ!言いたいのはそういうことじゃなくて…うまく言えない自分が歯がゆい。

「いえいえ!そうじゃなくて!確かに泰晴はすごいです。泰晴以上にすごい人は知りません。」
「追い打ちかけますね…?」
「でも、文月くんもすごいですよ。」
「俺も?」
「文月くんの笑顔と雰囲気と素直さで会社のみんなは癒されてます。」
「…」
「仕事を頑張ってる姿がいじらしいっていうか。」
「そんなの演技だし…あっ」

 ゆうきゅんが思わず口を押えて黙る。

「あんなこと演技じゃないです。やろうと思ってできることじゃないんですから。」
「否定しないんですね。バレてたか…」
「例え演技だとしても、それが文月くんの大切な一部です。」
「…」
「演技が上手な文月くん。笑顔がかわいい文月くん。優しい雰囲気の文月くん。癒し系の文月くん。仕事をがんばる文月くん。ちょっと意地悪な文月くん。外では俺っていう文月くん…」
 
 その時、とろけるような甘い笑顔が浮かんだけど、必死に頭の外から追い出した。

「それから、それから…ちょっと策士な文月くん。ちょっと黒い文月。Sな文月くん。Mな文月くん。エロい文月くん…」
「ちょっとちょっと!あはは!なんだよ~途中から悪口になってるし。それに最後は妄想の俺じゃん。」
「はっ!」
「今日の梢先輩すごく話しますね。」
「あわわわわ!すみません。できすぎた真似を!」
「ははっ」
「だって、すごく落ち込んでいるんだもん。大好きな文月くんを教えてあげたくて!」
「はーっ!!」

 また盛大に溜息をつく。まだ落ち込んでるかな。

「会社の癒し系の文月くんもいいですが、私はそうじゃない文月くんもいいと思います。魅力があります。」

 そう。きっと会社以外の文月くんを私は知ってる。それがとてつもなく嬉しい。そう思うと胸がきゅっと苦しくなる。

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