腹黒王子の初恋
「そう言えば、いつになったらタメ口で話してくれますか?」
「うっ。まだ慣れなくて…」

 カバンから例の小説を取り出してゆうきゅんが言う。

「ちゃんとタメ口にするって約束したら返してあげます。」

 ゆうきゅんは満面の笑顔。若干黒い…

「わ、わかった」

 言いながら本を受け取ろうとしたら避けられた。

「ん?」
「俺のこと呼んでみてください。」
「文月くん?」
「違います。」
「??」
「そうじゃないですよね。いつも実は呼んでる呼び方。」

 何を言っているか理解した私は一気に顔が真っ赤になった。

「無理無理!」
「えー?いいでしょ。お願い~。」

 ゆうきゅんの弟バージョンのおねだり&タメ口。ああ。かわいい。

「……」

 私は真っ赤になってパクパクしていると。

「ねぇ~言わないの~?」
「…」
「お願い、優芽ちゃん!」
「ひっ!」

 うわぁぁ~!上目遣いの名前呼び!

「…ゆ…う…きゅん…」
「え?聞こえないよ?」
「ゆうきゅん!」

 半ばやけくそになって叫んだ。はー!はー!息が荒くなる。

「はい。優芽ちゃん。」

 ゆうきゅんがすごくうれしそうに微笑んで本をくれた。

 結局すべてゆうきゅんの手の上で転がされてるような気がする。どこまでが本心でどこまでが演技なのかもコミュ障の私にはわからない。それでもいろいろなゆうきゅんを知りたいと思ってしまうんだ。

 こうやって笑ってくれるなら言うこと聞いちゃおうかなって思ってしまう。
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