腹黒王子の初恋

　「梢先輩！先ほど頼んだ印刷物とりに来ました！」

　そう鉄女を呼ぶと総務部の女性社員達がそろって俺の方を向いた。彼女がやはり無表情で近づいてきた。

　「部署まで届けますので、こちらにいらっしゃらなくても大丈夫です。」

　鉄女が小さい声で言った。

　「すぐ隣なんですから大丈夫です。ちょっと総務の方々とお話もできるし。」

　俺の言葉に総務の女性たちがザワザワしているのがわかる。男性社員も笑顔だ。

　「これ、ありがとうございます。」

　印刷物についたポストイットを指さしながら俺は答えた。そこには『お疲れ様です。がんばってください』のメモが。

　「がんばります！」

　俺のとっておきの笑顔にもやはり鉄女は無表情だ。鉄女の鉄面はなかなか固いらしい。何だか気に食わない。あの時の笑顔は割とかわいか…イヤイヤ…何なんだこの感じ。

　この時の俺は鉄女こと梢優芽にはまり始めていることにまだ気づいていなかった。