腹黒王子の初恋
 その瞬間。

 腕を引っ張られ、気づいたらゆうきゅんに抱き締められていた。

「ダメ。行かないで。」

 甘くすがるような声に体が痺れる。ゆうきゅんの胸の音が激しく動いているのを感じた。

「……」

 固まって動けなくなってしまった。さっきから予想外の展開すぎてついていけない。ゆうきゅんが体を少し離し、おでことおでこをくっつけた。

「…ねぇ。優芽ちゃんも俺のこと好き?」

 ち、近い。今度は自分の胸の音しか聞こえない。

 ちゅっ。

 ゆうきゅんが軽くふれるキスをした。

「…あ~。ヤバい」

 ゆうきゅんが耐えるようにつぶやく。色気あふれる声にクラクラする。

 ちゅ。ちゅ。ちゅ。

 軽くついばむように何回も口づけされた。私はどうしたらわからず何もできず固まっていた。

 その瞬間。

 急に、口に何かが入り込んできた。

「…っ!」

 思わずびくっとして離れようとしたら、大きな手に頭をがっしり掴まれた。

「…んっ…ぅ」

 思わず声が漏れる。何?何?口の中をゆうきゅんが激しく動く。上に下に。ぐるぐる。頭が真っ白になってきた。息もできない。

 急に唇が離れた。

「…んっ…ふぅ…」
「…はっ…」

 二人で肩で息をする。

「ごめ…ゆめちゃん。止まらなくて…」
「…え?」

 私はまだ自体が飲み込めずぼーっつとしていた。

「ホント、ごめん!ああ、やば。し、仕事!」

 ゆうきゅんは急に立ち上がってドアの方へ歩いて行った。ドアノブに手をかけて振り返って言った。

「ゆめちゃんはちょっと休んでから行ってくださいね!そんな顔他の人には見せられない…そ、それじゃ!」

 ガチャンと大きい音が響いた。ゆうきゅんが出て行った扉をぼーっと見ていた。
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