腹黒王子の初恋
「優芽ちゃん!」

 私の家の前で誰かがいた。その人物を見て目を見張る。

「・・・文月くん・・・」

 ゆうきゅんの視線が隣の泰晴に移り、そして繋いだ手に移った。笑顔がさっと無表情に変わった。

 手を離そうとしたけどぎゅっと泰晴に強く握られてしまった。

 っていうか今何時?

「いつから待ってたの?こんなに寒いのに…」
「どういうことですか…」

 私の質問に答えずゆうきゅんはつぶやいた。

「辻先輩と付き合うことにしたんですか」
「…えっと…」

 うまく言葉が出てこない。しばらく沈黙が続き、ゆうきゅんが一番に声を出した。

「わかりました。おつかれさまでした。」

 一礼してゆうきゅんが私たちの前を通って行く。

「…ちょ…ふづ…」

 思わず声をかけそうになったところを泰晴に止められた。

「やめとけ。何を言うつもりだよ。」

 そうなんだけど、急に現れたからうまく話せなかった。本当はちゃんと直接会って話さなきゃいけなかったんだけど。昨日からいろいろありすぎてまだそんな状態じゃなかった。

 カツカツと階段を降りて行くゆうきゅんの足音が響いていた。
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