腹黒王子の初恋
 ピンポーン

 家のベルが鳴らされた。

「え?泰晴?」

 扉を開けてすぐ抱き締められた。

「心配したぞ。急にいなくなってるし。電話は出ないし。」
「早くない?打ち上げは?」
「1次会で帰ってきた。」
「え?いいの?泰晴いつも最後までいるじゃん...」
「いいの。それより優芽なんで泣いてたんだ?」

 泰晴は腰をかがめ至近距離で私を見つめながら目元に触った。

「赤くなってる。」
「な、泣いてないよ。ちょっと目がかゆかっただけ」
「ふーん。飯食お?」

 頭をポンポンなでて靴を脱いで部屋の中に入って行った。

「お前お腹すいてるだろ?あんまり食べてなかったもんな。」

 手にはコンビニの袋が。

「優芽の好きな昆布おにぎり買ってきたよ。こっち来いって。」

 泰晴が私の手を取りソファの方へ行く。

 あったかい。泰晴の手。それだけで胸が痛くなった。優しくて暖かい泰晴。何も聞かないでいてくれる。

 おにぎりをかじりながら涙が出そうなのをがんばって堪えた。


 ピンポーン

 また家のベルの音。

「ん?誰だろ?」
「あ、莉子だ!」
「え?莉子?」
「ああ。俺が呼んでおいたんだ。」

 泰晴が玄関を開けて莉子を連れてきた。

「おっつー!つまみ持ってきたよ~飲もうぜ」

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