腹黒王子の初恋
「…なるほどねぇ」

 莉子がビールを片手につぶやく。

「二人が付き合うって話を聞いたとき、嬉しい反面大丈夫かなと心配してたんだよね。それが思ってたより早く来たってわけだ。」

 私は何も言えず手にぎゅっと力を入れた。

「ねぇ、泰晴のこと好き?」
「もちろん!大好きだよ!」

 私は食い気味に答えた。

「じゃ、文月王子は?」
「う...す...き」

 顔がゆでだこのように赤くなった。

「はー。もう答え出てると思うけど?」

 莉子は溜息をつきながら苦笑いする。

「泰晴は友達として大好きで、文月王子は男として好きなんだよ。」
「うっ...」

 的確に言い当てられて言葉が出ない。

「よし!泰晴と別れて文月王子と付き合えばいいんじゃない?」
「そんな簡単に言わないでよ…」

 泰晴の太陽みたいな笑顔とあったかい手が思い出される。私の初めての気を許せる大好きな男友達。そんな泰晴を失うなんて考えられない。

「そもそも、ゆうきゅんはもう私のこと好きじゃないよ。元カノとキスしてたもん。」
「何それ」
「さっき見ちゃった」
「ふっ。アイツもツメが甘いなあ。」
「何言ってるの。」

 またさっきの様子が目の前に広がりぐっと胸が痛くなった。

「泰晴を捨ててゆうきゅんを選ぶなんてできないよ。」
「捨てるって…」
「それに泰晴が他に彼女ができるの嫌だよ。お互い彼氏彼女が出来たら今みたいにいられないんでしょ。」
「まあ、普通はそうだよね。相手が嫌がるし。」
「私、泰晴大好きだもん。そんなの無理!」

 膝に顔を埋めた。

「じゃあさ、文月王子は彼女できてもいいの?」
「それも嫌!」

 私は思い切り顔を上げた。ここ数日、他人のようになったゆうきゅん。すごくつらかった。それにさっきは見たくないキスシーン。心臓がえぐられたかと思った。てか、すでにつきあってるんだよね。じゃなきゃキスなんてしないもん。

「あはは。ホントわがままだな、優芽は。」
「ホント、私って駄目だね」
「どうするの?このまま泰晴と付き合っててもつらいんでしょ。」
「どうしたらいいのかな?」

 ゆうきゅんへの思いは無視してればそのうちなくならないだろうか。それが一番いい気がする。そうすれば泰晴のこと男として好きになれる。

「じゃあ、聞くけど、泰晴とできる?」
「え?何を?」
「…キス…それ以上も」
「ぶっ……」

 泰晴と?想像できない。手をつないだり、抱きしめられたり、おでこにキスとかは別にイヤじゃない。そういえば、前にされそうになったことあったけど、それ以降何もない。でも、泰晴が私が好きだって言うのはすごく伝わってくる。もうそういう深いスキンシップは興味ないのかも。

「よくわからない…想像できない。そもそも泰晴は私とそんなことしたいのかな。」
「はー。優芽のアホ」

 莉子が分かりやすく大きくため息をつく。

「かわいそうな泰晴…」


 莉子と話してちょっとすっきりしたけど、結局どうしたらいいのかは答えが出ず、ますます眠れない日が続くのだった。
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