想いをのせて 【ママの手料理 番外編】
タピオカ
目の前に置かれたタピオカの容器に入れられたストローでタピオカをぐるぐると混ぜながら、私ー丸谷 紫苑(まるたに しおん)ーは口を開いた。



「……ねぇ、壱(いち)さん」



「俺は仁(じん)ですけど何か?」



間髪入れずにそう答える彼ー伊藤 仁(いとう じん)ーは、私の求めている人ではない。



「壱さんに会いたい、壱さんになって」



叶わないと分かっていても、それが我儘だと分かっていても。



私は、そう願ってしまう。



「…ごめんね。壱は、僕の中から居なくなっちゃったみたいなんだ」



私が抹茶ミルクティーをストローですすった瞬間、仁さんは黒いエプロンを外しながらすまなそうに笑った。




仁さんは、二重人格だ。



元々は一卵性双生児の双子として産まれる予定だった、兄の仁さんと弟の壱さん。



けれど、壱さんの身体が上手く育たず、胎内での成長過程の中で仁さんの身体の中に吸収されてしまった。



その事が原因となり、仁さんの中に死んだはずの壱さんの意識や人格が誕生したらしい。



主人格はもちろん仁さんだけれど、壱さんの名前を呼べば人格はもう1人に切り替わる。



明るくて突っ込みが上手くて少し毒舌で、事ある毎に自分はイケメンだと強調してくる仁さんと、クールで口が達者で信じられない程毒舌で、事ある毎に兄である仁さんを笑い者にする壱さん。
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