想いをのせて 【ママの手料理 番外編】
性格は正反対だし、お互い嫌いだとか言っておきながら何だかんだ仲の良い2人の事を、私を含めた家族は受け入れていたし、もちろん好きだった。




それなのに。



ある日突然、壱さんは居なくなってしまった。




『俺さ…消えるわ。ごめんな、お前ら』




急に、家族皆の前で壱さんに切り替わった彼は、俯いたままそう言い出したのだ。



最初は、冗談だと思った。



『何言ってるの?』



皆、笑ってその話を終わらせようとした。



けれど。



『真面目な話なんだよ。……俺、本当に消える事にした』



壱さんだけが、笑っていなかった。



仁さんと違って泣いた事なんてほとんど見た事が無いのに、目に涙を沢山溜めて、両手を固く握り締めて。



『いや、消える事にしたって…。そんな簡単に仁の中から消えれるものなの?』



よぎった不安を打ち消そうと、少し笑いながら誰かがそう言って。



『…消えれる。消えれなくても、消える。お前らに呼ばれても、今後一切お前らの前に出て行かねぇ』



震える声で吐き出した壱さんの目から、涙が零れた。




話を聞くと、どうやら壱さんは壱さんなりに悩んでいたらしい事が分かった。



このまま二重人格として仁さんの中に居座っていても、その身体は自分のものでは無いから、動かすのに少し抵抗があること。
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