想いをのせて 【ママの手料理 番外編】
その事実を飲み込みたくなくて、私はしばらく仁さんの顔も見れなかった。



家族の中には暗い雰囲気が漂い、皆何とかして壱さんの話題を出さない様にと必死だった。




けれど、私は知っている。



『壱っ……、出て来いよ、何処に居るんだよっ…!?』



夜な夜な寝室で、やり場のない苦しみを誰にも吐き出せずに泣いている、仁さんの事を。



それなのに、“壱さんに会いたい”と言ってしまう私が、私は嫌だ。





「……ごめんね、」



いつの間にか私の隣のカウンター席に座った仁さんは、私の頬を流れる涙を指で拭い取った。



その声には、いつものおちゃらけた響きは欠片も感じられなかった。



(仁さん、謝らないで…、)



タピオカを5個程一気に喉に流し込んだ私は、必死に首を振る。



「泣いてるくせに強がるとか有り得ないからね、紫苑ちゃん」



そう言って微かに笑った彼の目は、やはり潤んでいた。




「……ここにね、」



しばしの沈黙の後、また仁さんが口を開いた。



私の抹茶ミルクティーは、半分に減っていた。



「ここに、」



そう言いながら、彼は自分の胸に手を当てた。



「ここに、確かにあいつがいる感覚がするんだ。前と同じ様に……」



だから、消えてないって信じたい。今は出て来ないだけで……、と、声を詰まらせた仁さん。
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